【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例(東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

Q東京ポートシティ芝オフィスタワーについてお聞きします。資料に工期は2016年5月から2020年5月とありますが。

工期はそうですが、実際の検討作業は2012年秋頃から始まっています。この竹芝のプロジェクト敷地には、もともと都有施設が集積し、都立産業貿易センター浜松町館、東京都計量検定所、東京都公文書館がありました。それを民間の活力を導入して地域を再生しようと、東京都の「都市再生ステップアップ・プロジェクト(竹芝地区)」に位置づけられていました。事業者である東急不動産(株)さんと鹿島建設(株)さんで応募される際に、コンペの時から我々にお声掛けいただいて、一緒に計画検討をスタートしました。

東京ポートシティ竹芝オフィスタワーは、東京都の産業貿易センターと計量検定所の跡地での再開発となります。(永石さま)

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

図:計画地の位置

Q竹芝では各所で開発がなされていて、面白い商業施設や飲食店なども入っていますね。

そうですね、東京ポートシティ竹芝では低層1~3階に飲食店が入っています。また、近接するJR東日本さんの「ウォーターズ竹芝」も当社が外構を設計させていただいており、劇団四季さんや多くの飲食店などが入っています。

竹芝地区ではこれまで、首都高による人の流れの分断や集積した都有施設が更新時期を迎えたことにより、まちの魅力の低減が課題となっていましたが、再開発を契機に街が生まれ変わってきていると感じています。(永石さま)

 

Q御社としてもこの辺りについて、かなり実績がおありになったということでしょうか?

かなりというほどではありませんが、竹芝エリアには、当社が設計を手掛けた案件がいくつかあります。(永石さま)

先日、駅の反対側に世界貿易センタービルディングの南館が竣工しましたが、ここも携わりました。浜松町周辺でも度々設計に関わらせて頂いています。(小池さん)

 

Q街づくりの一貫のようなプロジェクトですね。

マスタープランの重要性だとか、魅力ある骨格づくりのようなところは、我々が標榜するビジョンであるLDビジョンの一つとして挙げさせていただいています。(小池さま)

航空写真をみていただくと分かるように、芝離宮公園、浜離宮恩賜庭園という大きな庭園があります。もともと竹芝地区自体は緑の少ないエリアだったのですが、再開発を契機にそれぞれの敷地が積極的に緑化に取り組んでいくことで、街全体としての緑のネットワークが徐々に生まれてきます。

この両庭園は東京を代表する池泉回遊式の庭園であり、東京湾の水を引き込んで潮の満ち引きを感じることのできる汐入の庭として水と緑の調和した庭園でした。今回の東京ポートシティ竹芝では地域特性でもあるこの両庭園からコンセプトの着想を得て、建築計画の方で低層部に向かって末広がりに広がる段々状のテラスが計画されていたので、そこを単に緑化するだけではなくて、巡り歩いたり、休憩して楽しいような仕掛けを各階に施していくことで、現代的な立体回遊庭園のようなテラス空間にしていけるといいなと当初から考えておりました。

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

写真:スキップテラス 立体的な緑の連続性と各層に設えた特色ある広場・施設を巡る立体回遊庭園

屋外のテラスは6階まで全部、地域に開かれたスペースです。自由に誰でも行けるようになっています。

スキップテラスの一番上のレベルになる6階にオフィスエントランスがあり、そこから上は建物内でセキュリティーがかかる範囲になっています。

今回の開発地には元々、産業貿易センターがあったのですが、建替え後も2~5階までは産業貿易センターが中に入っています。ですので、イベント時にはホールの利用者の方なども多くテラスを利用されています。(永石さま)

 

Q御社の業務範囲について教えてください。

地上部と、テラス部、壁面緑化などの屋外空間のデザインです。

壁面緑化は首都高側と南側の低層部にあります。

屋上緑化については、テラス自体も屋上という位置づけですが、テラスは人にとって居心地がいい空間づくりと、生物多様性に配慮した植栽計画に取り組んでいます。最上階の屋上にも緑化をしています。最上階屋上は地上200m以上の高さとなるので、風が相当強く大きな木は植えられませんので、薄層緑化といわれる荷重が少ないものを採用し、ビルへの熱負荷の軽減などに配慮しています。(永石さま)

 

Q外見的には緑のネットワーク、立体回遊のネットワークがありますが、街づくりのような視点からの検討はされているのでしょうか?

街づくりという大きなところまでではないのですが、例えば竹芝通りという道が敷地の北側にあります。浜松町駅から竹芝ふ頭公園まで続いています。竹芝通り側の地上部に地域に開かれたオープンスペースを設けたいという考えが当初からあり、通りに沿って、歩きながらちょっと座って休憩できる設えを施しました。

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

図:全体マスタープラン

竹芝通りの歩道と今回の計画地で敷地境界がありますが、一体的な沿道空間を整備するために事業者の方の自主事業で舗装材の意匠を合わせて、建物際から歩道まで一体の歩行者空間としてみせられるような工夫をしました。

さらに、このプロジェクトによって、浜松町駅から竹芝駅・竹芝ふ頭まで繋ぐ全長約500mの歩行者デッキが整備されました。4月にオープンしましたばかりです。この歩行者デッキから芝離宮が眺められます。プロジェクトの事業コンペのときに提案し高く評価されたと聞いています。(永石さま)

 

Qこのように街の骨格がある程度決められていて、大きな目でみるとそれがすごく分かってくるのですが、その中で一つのオフィスタワーの緑地空間を作ろうというときには何か問題ややりにくい、そうでもないというのはありますか?

今回の東京ポートシティ竹芝がリーディングプロジェクトというイメージで、竹芝エリアを東京ポートシティ竹芝が引っ張っていくくらいの意気込みでやろうと思いました。

竹芝エリアはオフィスや倉庫が集積している場所で、ふ頭は別として屋外空間で皆さんが快適に過ごせる場所があまりなかったので、地域に開放されたオープンスペースや居心地の良いテラスなどが作れればと思いました。低層部には商業施設も入っていますし、周辺オフィスの方が食べにきてテラスでくつろぐとか、竹芝ふ頭利用の方が出航までの間の時間を過ごせるとか、多用な滞留空間をテラスの中に仕込もうという考えがありました。大きな街づくりという視点とは少し違うかもしれませんが。(永石さま)

 

Qオフィスを軸としたような建築計画とランドスケープとのマッチングはどのように考えていますか?

建物の計画の初期段階から我々も参加させてもらったので、テラスの構成や用途、利用する人々について何度もディスカッションをさせてもらって、どういった設えが相応しいか検討しました。

例えば6階は、1階から来街者が上がってくることができますが、どちらかというとオフィスユーザーがメインではないかと考えて、アウトドアでミーティングできるような設えをしたり、リフレッシュしてリラックスできるようなデイベッドを置いたり。6階まで行くと東京湾を眺められたりできるので、周囲への眺望を楽しめる開放的な空間としています。

2階、3階になると飲食店を利用しに来た方や、来街者の方、そしてオフィスワーカーなど幅広い方が滞留できるような多様なファニチャーを配置しました。オフィスビルなので、最近はモバイルで屋外作業できるような個人掛けから2、3人掛け、グループ掛けなど色々なバリエーションの滞留場所・ワーキングスペースを作ろうと考えました。

その中でいずれにしても緑と人との距離感を近しいものにしていくことを考えながら作りました。

 

話が若干もどりますが、コンペ応募時に竹芝新八景という提案もあって、8つの生物多様性の取組みを盛り込んでいます。「雨の景」のレインガーデンや「蜂の景」でミツバチ養蜂、「水田の景」で田んぼなど。単に緑地ではなくて、それぞれ生物多様性にも配慮した緑の設えを各階にちりばめています。その機能をデザイン的にうまく昇華させてモダンな建築と合うようにデザインとして成立させるようにしました。

 

「空の景」とは、ハヤブサとチョウゲンボウがこの地域の生息調査で生息していると分かっていたので、芝離宮側のテラスの設備バルコニーに巣を作れる仕掛けがされています。

「蜂の景」では、ミツバチは毎年養蜂で蜜を採取しています。地域の方向けに見学会など実施しています。昨年はコロナ禍もあって採蜜体験まではできていませんが、落ちつけばそのようなイベントも運営の中でやっていく予定と聞いています。

「菜園の景」の菜園では野菜を育てています。これもイベントの一環で収穫体験などを考えていましたがなかなかできていませんが、ここで取れた野菜やハーブを3階の飲食店に一部提供するなどテナントさんとの連携もされているようです。

「水田の景」の水田では地元の幼稚園児を招いて、田植えや稲刈りのイベントをしています。

「島の景」では、竹芝ふ頭が伊豆諸島への発着口でもありますので、島しょの植物をPRするものとして、室内に壁面菜園を設置しました。八丈島は観葉植物の生産が盛んな場所で、その植物を植えることで、オフィスユーザーや来館者の方に伊豆諸島とのつながりを感じてもらいます。

「水の景」では小さな生態系を表現するアクアテラリウムとして、自然界での窒素循環の仕組みを学べる生態展示となっています。

「雨の景」ではレインガーデンとして、地上に降った雨やテラスに吹き込んだ雨を排水溝で直接下水へ放流するのではなく、大地に浸透させていきます。昨今言われているグリーンインフラの一貫です。雨水浸透を視覚化した雨庭を作っています。それによって下水道負荷の軽減や健全な水資源の循環に取り組んでいます。浸透エリアは砂利の部分となりますが、伊豆諸島の新島産のこう抗火石というポーラス状の石を用いて島との繋がりにも配慮しています。(永石さま)

管理者は東急不動産さんがメインでやっています。鹿島建設さんとの事業会社、アルベログランデという会社で運営管理されています。

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

図 竹芝新八景アクソメ図 フロア毎にテーマを持った新八景を立体的に展開

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

写真:3F壁面菜園(写真左)・アクアテラリウム(写真右)

Qこのプロジェクトには、東京都や港区は何か関わっているのでしょうか?

直接的に竹芝新八景や生物多様性の取組みなどには東京都や港区と直接やりとりするということはないのですが、東京都の「江戸のみどり登録緑地」という生物多様性に配慮して在来種を主とした緑化を認証、表彰する制度がありますが、今回在来種を主体とした緑化を行い、生き物の生息環境に配慮した取り組みを評価され、「優良緑地」として登録されています。(永石さん)

 

Q若干、竹芝通りのほうに空地があるのでしょうか?

街の方に開くとしたら、竹芝通り側です。このエリアのメイン通りですので、通りに面して水を感じられるオープンスペースを設けています。

一方で、これだけの超高層ビルで且つ沿岸部なので、風に対する対策が重要でした。風のシミュレーションにおいて風環境が厳しい場所には、常緑樹主体の防風植栽としています。ちょっと囲われたように感じますが、実際に歩いてみるとアイレベルでは中とつながってみえます。

広場には、薄い水膜の水盤やシンボルツリーを植えています。建物の1階にホールが入っていますが、ホールの引き戸を開けると水盤と一体利用できます。水盤は深さが5、6㎜なので靴のまま入っていけます。

水景は2系統に分けられるように仕込んでいます。片方だけ水を入れて、もう片方はホールと一体となってファッションショー等のイベントができたり、色々な使い方ができます。

水盤の水は循環して浄化しています。建物側から吐水していて水下側ベンチ側で水を排水し、貯水槽に戻って殺菌してポンプアップして循環しています。人が手に触れる水景システムは一般的にこういう形が多いです。生物に配慮したものでなければ。このようなシステムを構築するのはランドスケープアーキテクトの役割です。建築設計さんや設備設計さんと協働になることも多いのですが、基本的なシステムを水景メーカーさんと一緒に考えたりします。貯水槽や機械設備の位置をどこに置くかというのは建築設計の方と考えます。今回の場合は建物の地下に空間を設けてもらいました。(永石さま)

 

Q植物に対する塩害などは、意識されないのでしょうか?

当然植物に対しては耐潮性と耐風性を考慮し、潮風に強い植栽を多めに使っています。テラスでは外周部に常緑樹で潮風に強い樹木を入れて、内側に落葉樹や色どりのあるものを人の近いほうに持ってきています。

落葉樹については好みによりますが、今回は事業者さんも多彩な植栽が好みの方でしたので、落葉樹も沢山使っています。

ただ、実が落ちるものはデッキの上に置くことは行いません。実が落ちても緑地に落ちるようにして、舗装を汚さないような配慮をします。(永石さま)

 

Q建設計画と外構、ランドスケープのマッチングというのはどう意識するのでしょうか?

もちろん建物内部の機能によって変わってくると思います。例えば先ほどの1階ホールは内部との連動を考えますし、低層の2、3階は植栽を多くするのではなく、テラス空間として飲食する方たちが外部として植栽を感じながら飲食できるように、3階はいろんなイベントができるような広いスペースを設けたり、近くのカフェからコーヒーを買ってきて緑陰のあるテラス空間で憩えるような感じ、4、5階は産業貿易センターの利用者の方がリフレッシュできるような空間、6階まで上がってくるとオフィスロビーとなり、ロビー内から外を見るとどう見えるかを考えて、水盤や植栽を置くと。向かい合って住宅棟があるので、目線レベルで見合いをしないように、緑の緩衝帯、スクリーン緑化となるように意識しています。

建物の内部からの見えも配慮しますし、内部の機能に応じた外部空間のあり方を求められていると思いますので、常にそこを意識しています。(永石さま)

 

Qオフィス人口と来街者ということに意識して、それぞれの階に機能を持たせているということでよろしいでしょうか。それで外部空間とつながっていると。

6階まで繋がる多目的な空間というのは、なかなかないですよね。

アクロス福岡のような有名な緑の丘もありますが、そこにアクティビティを内包したような丘、テラス空間は少ないかなと思います。

それは、事業者さんや鹿島建築設計さんと議論しながら生み出しました。

当初から、低層部に向かって末広がりに広がるような段々状のテラスを設けていくような大きな骨格はありました。それが地域貢献につながるという提案でもあったと思います。その中のメニューをどうするかは基本計画、基本設計、実施設計を行っていく中でブラッシュアップされていきました。(永石さま)

 

Qエクステリアのメーカーが作るような製品、自分で設計されたり、建築事務所が設計されるものが多いかと思いますが、このプロジェクトではメーカー製品は使用されましたか?

カウンターテーブルやベンチは造作しましたが、このプロジェクトでは、ファニチャーはそのままメーカーさんの製品を使っています。今回は、フェンス系もテラス端部はすべてガラススクリーンでしたので、さほどないかなと。ミツバチのテラスの近くでは、ミツバチが時期的にいないときには簡易的に閉じられるように、メーカーさんに協力いただきながら門扉をつくりました。これは特注で作りました。デッキは人工地盤上なので、荷重条件や寸法なども含めて、既成のものを生かしながら今回のものにアレンジしていただきました。

サインはオリジナルです。

足元の木に見えているのは、東急不動産さんの方で間伐材を利用推奨されていまして、間伐材を使用したサインです。

サイン計画は他の会社が担当しています。

【前編】緑とアクティビティが重層的に繋がるランドスケープ設計事例 (東京ポートシティ竹芝 オフィスタワー )

写真:5Fミツバチ巣箱 ミツバチテラスのフェンスと門扉

竹芝の方はコンペから弊社は参加していますが、基本設計のフェーズでプレイスメディアさんというランドスケープの設計事務所さんにも参画いただいて、一緒に協働いただきました。(永石さま)

 

ランドスケープアーキテクト/小池 孝幸(こいけ たかゆき)
株式会社ランドスケープデザイン 常務取締役設計統括部長

略歴 :1991年東京農業大学大学院造園学専攻修士課程修了/1993~1999年鹿島建設建築設計本部ランドスケープデザイン部/1999年ランドスケープデザイン入社/RLA 主な作品:東京大学駒場コミュニケーションプラザ(造園学会賞奨励賞)、神奈川工科大学学生プラザ、八海山雪室、台湾立偕樂埔町/ 主な著作:「ランドスケープ批評宣言」共同編著(INAX出版)

 

永石 貴之(ながいし たかゆき)
株式会社ランドスケープデザイン シニアプロジェクトリーダー

略歴 :九州芸術工科大学大学院修士課程修了。(株)景観設計研究所を経て、2008年より現職。「Koboパーク宮城(楽天球場)」、「日比谷パークフロント」、「東京ポートシティ竹芝オフィスタワー」、「中野セントラルパークサウス」等、多数のランドスケープ計画に従事。 登録ランドスケープアーキテクト/RLA、樹木医、一級造園施工管理技士、一級土木施工管理技士などの資格を持つ。

現在の活動:都心の大型再開発や高級レジデンス、大学キャンパス、リゾートホテル等幅広いバリエーションのランドスケープデザインに取組んでいる。