目先の景気が良くても、常に危機感を持ち、謙虚に経営することが大切。(好景気感のある、いまに思う)
ハウスメーカーの住宅商品の開発スパンは、短くて5年、長くて10年だと言われている。とりわけ、昨今のように高級層をターゲットにした市場になると、その傾向はさらに短くなる。ローコスト専門ビルダーが、安価な建売住宅を量産して棟数を稼いでいた時代に比べると、市場的にはかなり厳しいものになると思われる。
数が少なくなれば、その分だけ厳選のメカニズムが働き、本物志向へと変化してくる。
そのことが、エクステリア業界にとってはプラスなのかマイナスなのか、
答えはまだ出ていない。
しかし、エクステリア業界もなんとなく本物志向の市場へと対応せざるを得なくなってきたことは事実である。景況感が不透明な中、貧富の格差だけは拡大している。
それを物語るのが、首都圏エリアのエクステリア販工店の年末年始の多忙さである。
決して安い仕事ばかりではなく、結構高額物件を受注しているのだ。彼らは仕事が絶えることなく、忙しい日々を過ごしている。年末には5000万円の物件に着手したという販工店や、年明けにはさらに大型物件が進行する予定が控えている販工店など、景気の良い話がたくさん聞かれた。
決してモーレツな営業を掛け、「金を儲けよう!」と思って特別な販促を仕掛けたわけでもない。この業界が高級市場を発掘するために、大がかりな仕掛けをしたわけでもない。
厳然としてあるのは、その地域に、「高級住宅を建てたから、良い庭も欲しい」というニーズだけである。地下から地面に湧き水のように溢れてくる富裕層のニーズがあり、それをすくえるのがその地域の販工店であるということだ。この湧き水は、ホームセンターや住宅設備専門のリフォーム店などの“ひしゃく“ではすくうことはできないのである。
市場創造とか市場拡大を業界あげて行わなければ、エクステリア業界は衰退していくという警鐘も確かに事実かもしれない。しかし、今はそうしなくても、世の中から自然とあふれ出てくる果実がある。それが厳選された高級住宅の市場であり、限られた富を独占する富裕層の住宅ニーズなのかもしれない。
そうしたニーズが、この国全体の景況の真の姿を隠しているという言い方もできる。富める者の象徴は、邸宅であり、豪華な庭である―まるで中世の貴族のような世界だ。しかし、そうした世の中が永遠に続いた試しはない。
今のエクステリア業界の「高級化」への追随と猛進(盲進)を見ていると、少しは負の側面を考えておく必要性を感じてしまう。多くの富を持たぬ若者、経済的な原因で結婚もできない、車も家も持てない若者がたくさんいる世の中で、まるでそんなことが存在していないような富裕層物件があり、それに群がる関連産業が磁石のようにぶら下がり、または儚い砂のようにふるいにかけられる。その姿はまるでノアの箱舟のようだ。
どんなに目先の景気が良くても、それはもしかして神話かもしれないのだ。ちょっと悲観的かもしれないが、儲かっている会社だけではなく、一般に言われている景況感に左右されずに、常にそんな危機感を持ち謙虚な姿勢で着実に地域のニーズを掘り起こすなどの経営に臨むことが大切なのではないか―そんなことをあらためて痛感する年末年始のエクステリア業界であった。
著者プロフィール
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佐倉慎二郎 ㈱住宅環境社 代表取締役社長
住宅建材業界、エクステリア分野の専門誌記者・編集者25年。2006年より「月刊エクステリア・ワーク」を発行する㈱住宅環境社入社。2014年に代表取締役社長に就任。現在は住宅と外構・エクステリアを融合する「住宅と庭との一体化設計」と、非住宅分野である商業施設(コントラクト市場)における庭空間の市場開拓を探る「サードプレイス『庭・快適空間』」を発刊。ホテル、レストラン、商業施設などに向けての情報提供や、まちづくり、異業種コラボレーションに向けての提案を行っている。
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